« 廃棄してしまった雑誌の事 | Main | NHK「闘うリハビリ第2弾」を見る »

February 09, 2009

岩波ホールで「懺悔」を見る

▼辺見庸を一躍有名にした「もの食う人びと」を読んでいたら大発見をしてしまった。前半に「食とネオナチ」というドイツを旅してトルコ人の店でケバブを食べるのだ。その中で1961年に労働者派遣協定がトルコとの間に締結されたとある。またまたガイドにだまされたのだ。彼は何度も力強く自信を持って「60年」と強調していた。しかし辺見の著書と他の文献を当たってみると、それまでも東欧とか東ドイツから移民などは来ていた。ところがベルリンの壁が出来てから自由往来でできなくなって、この協定が締結されたとある。やはり想像通り、第二次大戦で大勢の戦死者が出て、労働力が不足していたのだ。今後もガイドの話は参考程度に聞いて、怪しいのは文献で調べなければ恥をかいてしまう。
▼昨日新宿高島屋の中にあるテアトルタイムズスクエアに「ラ・ボエム」を見に行った。所が受け付けに午前10時半について映画のタイトルを言うと「14日からです」と言われる。うーむ間違ってしまった。今はデジタル・リマスターの「アラビアのロレンス」を上映していた。これは何度も見ているし、DVDも持っている。しかも侵略者の手先であったロレンスは大嫌いである。携帯で他の映画をチェックしたら新宿ではロクなものを上映していない。そこで急遽神保町の岩波ホールに行けば、上映開始時間に間に合う事が分かった。
◇「懺悔」1986年のグルジア映画だ。今見ると何でもないが、まだソ連が存在していた当時のグルジアでこの映画が作られた事が素晴らしいのだ。公開当時70万人もの人がこの映画を見るために映画館に通ったという。教会の形をしたケーキを作っている一人の中年女性がいる。客が窓の下で声を掛けると彼女はケーキをロープをつけた台で1階に下ろしている。2階の彼女の調理場でケーキを「美味い、美味い」と食べ続ける男は新聞の紙面にくぎ付けになる。「おー彼が死んではわたしはもう生きがいをなくしてしまう」と叫ぶ。彼女が紙面を覗くと何と元市長が死亡したという大きな記事が掲載されているではないか。
▼元市長の大規模な葬儀が行われ、それは実況中継で国の隅々まで放送されているようだ。一部の人は悲しんでいるが、多くの市民は仕方なく参列しているように思える。埋葬が行われた日、犬がよく吠えるので市長の妻が覗くと庭には埋葬された筈の市長の遺体が立てかけてあるので絶叫する。そんな事が何度も繰り返されるので、一族と警察が墓場に銃を持って張り込んでいると、夜中に墓を掘り返している人物を捕まえることに成功する。捕まえて見るとそれは女であり、しかもあのケーキ職人だった。果たしてなぜなのか裁判が開かれると、その真相が明らかにされる。
▼元市長は何をしていたのか?市長を批判するものに対して「人民の敵」のレッテルを貼り、逮捕を続けていたのだ。彼は秘密警察を使って「敵」の摘発を続けるのだが、そのうち敵がいなくなってしまう。しかし秘密警察は市長の摘発の成果に対する褒美を期待して意味もなく市民の逮捕を続ける。あるときなどは村の同じ苗字の人びとが全員怪しいと言って、秘密警察はトラック一台分の村人を連行して来る。市長は怒って一度は全員釈放しろというが、実績を作るためにやはり牢獄に入れてしまう。そんな一人にケーキ職人の父親がいたのだ。彼もあるとき秘密警察に踏み込まれ連行される。妻が必死になって夫の行方を知ろうと八方手を尽くすが行方不明になる。
▼取り調べの場面が出てきて、夫の旧友と面会させられる。彼は「誤っていても逮捕される人の数が増えれば中央政府は、それは変だと思って調査をするに違いない。お前も自白してしまえ」とそそのかす。彼の態度を見て夫は絶望してしまい奮闘の甲斐なく処刑されてしまう。妻は執拗に夫の行方を探す。村人は強制労働で木を伐採する仕事をさせられているらしいという噂が広がる。森林から貨物列車で運ばれて木の切り口に、自分の家族が生きている証に名前を彫ってあるものを見て安堵する家族もいる。しかし夫の生きている証が見つからない妻は当局の逮捕され、8歳の娘は一人残されてしまう。市長が何回埋葬されても掘り返されてしまうのは彼女が両親を、秘密警察によって殺害された恨みが籠もっていたのだ。
▼そして裁判は彼女が精神鑑定で「異常だ」という事で決着させようとする。しかし精神病院に連行されるらしいケーキ職人の主人公は「わたしはどこに行っても墓を掘り返して元市長を安住の天国などには送らない」と裁判長を睨み付けて退廷する。スターリンが行った秘密警察と密告政治をこれほど真正面から批判した作品はなかった。

|

« 廃棄してしまった雑誌の事 | Main | NHK「闘うリハビリ第2弾」を見る »