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June 16, 2009

アンジェイワイダの映画を撮る姿勢

▼昨日の話NHKETV特集の続きだ。もう一本最後に放送されたのは「アンジェイワイダ祖国ポーランドを言い続けた男」という90分のドキュメンタリーがあった。アンジェイワイダについては何度も映画をご紹介しているから、映画そのものについてはその当時のブログをご覧頂きたい。1944年6月からソ連軍はナチスドイツを追いつめてポーランドに迫った。ポーランド軍と国内で武装蜂起した人びとは当然ソ連が助けてくれると思って決起する。しかしソ連とナチスドイツは密約が出来ていて、ポーランドを半分に分割する。そしてソ連軍は国内の蜂起に歩調を合わせず、2ヶ月間ただ蜂起が消滅するのを待ち彼らを見殺しにする。これはあのつまらない映画「戦場のピアニスト」にも描かれていた。アンジェイワイダの映画「地下水道」にもこれは描かれた。
▼この映画で男が盲目になり、女が必死に明るい方、明るい方へと連れて行く。しかしその大きな水道管には鉄格子がはめられていて脱出は不可能だ。男は女に「何が見える?」と聞く。すると「青い空と木々が見える」と彼を慰める。しかし実際には沈黙したソ連軍の部隊が控えたままだった。なぜそういう表現になったのか?それはソ連に実質的に支配された戦後のポーランドにあって、検閲があったからだ。映画の撮影現場には常に編集長と呼ばれる人が同席しており、彼らが「検閲」を行っていた。
▼アンジェイワイダは常に検閲をどうすり抜けるか、という事に精神力を砕いていた。それは「大理石の男」でも実は最後のシーンで、若い娘が戦没者の墓を訪れるが肉親の消息が分からないので、花束をそっとおいて立ち去るシーンがあったが、これも検閲でカットされる。つまりその5分足らずのシーンがソ連に対する当てつけと判断されたのだ。
▼そしてドキュメントでは監督の最新作「カチンの森」の一部が紹介される。これは今年初めに一度書いたが来年の正月映画として岩波ホールで上映されることが決まっている。すでに字幕がついていたからかなり編集作業が進んでいるのだろう。原題は「カチン」だが、アンジェイワイダの父親が実はカチンの森で中尉として射殺されていることが分かる。そして監督の母親はずっと中尉が生きて返ってくることを夢見て死亡してしまう。映画は彼の両親に対するオマージュとして作られているようだ。そして墓参のシーンは、ようやくこの映画で再現されることになったという。
▼同日の日曜日夜10時からNHK3chでETV特集は1時間半に渡って「韓流映画抵抗の系譜」という内容だった。韓国を旅したのは韓流シネマ映画プロデューサー李鳳宇(リ・ボンウ)さんだ。韓国映画も戦前は35年に渡る日本の支配で満足な映画を作ることはできなかった。そして李政権下でも、朴政権、全斗煥でもそうだった。検閲がなくなったのはこの10年くらいだった。わたしはその弾圧下において映画を作り続けたイム・グォンテク監督は1994年に「太白山脈」を作った人だ。彼は「イデオロギーを実現させるために、人間を犠牲にするという考え方は体制が変わっても同じだ」と語る。わたしはこれはアンジェイワイダの映画作りにも共通すると思う。「検閲」は体制が変わってもなくならないだろう。そのとき抵抗しなければそれで終わりだ。「風吹く良き日」 を撮ったイ・チャンホ監督は、「怖いのは外部(国家)検閲を恐れて自分がこんな事を表現してはまずい、などと自分自身を検閲してしまう事だ」と語る。
▼つまり何事も良い方向(社会の進歩)に前進させるには、そういう抵抗する心が必要なのだ。という風に2本のドキュメンタリーを見てわたしは思った。

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